はじめに
企業グループ内で行われる取引、なかでも本社や特定の子会社に共通業務を集約し、その費用をグループ各社へ配賦する「シェアードコスト取引」については、従来から「支払額の根拠が不透明」「経費の実態確認が困難」といった指摘がなされてきました。
こうした課題に対応するため、企業グループ内取引について、その内容や対価の算定根拠を示す書類の取得・作成・保存を義務付ける新たな制度の創設が予定されています。本記事では、改正のポイントと実務上の留意点を整理します。
1. 改正の趣旨・背景
企業グループ内、特にシェアードコスト取引においては、関係会社間で恣意的な支払額の調整が行われやすいという問題が以前から指摘されてきました。また、取引の内容や支払額の根拠を示す資料が十分に受領・作成されていないケースも多く、保存書類だけでは経費の支払額が適正であるかを確認できないという実態があります。
そこで、内国法人に対し、企業グループ内取引の詳細が分かる一定の資料の取得・作成・保存を義務付け、課税関係の適正化を図ることが本制度の趣旨です。
シェアードコスト取引とは 企業グループ内で発生する共通業務(研究開発、広告宣伝、システム維持管理など)を特定の法人に集約し、発生費用をグループ内の他の法人に利用料等の一定の基準で請求する取引をいいます。その他、経営指導料等も今回の税制対象に入ります。
2. 改正の内容
内国法人が「関連者」との間で「特定取引」を行った場合、取引関連書類等にその対価の額を算定するために必要な事項の記載・記録がないときは、以下の事項を明らかにする書類(電磁的記録を含む)を取得または作成し、保存することが義務付けられます。
- 取引に関する資産または役務の提供の明細
- 内国法人が支払うこととなる対価の額の計算の明細等
なお、本書類保存義務に従って書類が保存されていない場合、青色申告の承認の取消事由に追加される措置も併せて講じられる予定です。
用語の整理
関連者 移転価格税制における関連者と同様の基準で判定されます。具体的には、法人と「特殊の関係」にあるものが該当すると考えられ、
- 一方が他方の発行済株式等の50%以上を直接または間接に保有する関係(親子関係)
- 同一の者によって発行済株式等の50%以上を直接または間接に保有される法人相互の関係(兄弟関係)
- 一方が他方を実質的に支配している関係(役員の兼務、取引の依存、資金調達の依存等による実質支配関係)
- 上記が連鎖することで生じる関係
が想定されます。
特定取引 販売費・一般管理費その他の費用の額の基因となる取引のうち、次のいずれかに該当するものです。
- 関連者から内国法人に対して行う工業所有権等の譲渡または貸付け(工業所有権、特別の技術による生産方式、著作権、プログラムの著作物など)
- 関連者から内国法人に対して行う役務の提供のうち、研究開発・広告宣伝等の事業活動、専用資産の使用や維持管理、経営の管理・指導、情報提供等
取引関連書類等 法人税法等の規定により保存が義務付けられている注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類、またはこれらに通常記載される事項が記録された電磁的記録を指します。
3. 適用時期
現時点では令和8年度税制改正大綱に具体的な記載はなく、今後の動向を注視する必要があります。
本日2026年4月27日時点でも、E-GOV法令検索上の規定にはありませんでした。海外子会社との取引に関して規程した移転価格税制(租税特別措置法第66条の4、法人税法施行令39条)に準じた法制度の為、その近傍に規定がされるものと考えております。関係される方はご確認をされることをお勧めします。
4. 影響 ― 中小企業も対象に
本改正により、企業グループ内の関連者との取引について、取引内容や支払額の根拠を示す詳細な書類の整備が義務付けられます。対象法人は大企業に限定されておらず、中小企業も対象となると考えられる点が大きなポイントです。
書類の保存義務を怠った場合には、青色申告の承認が取り消される可能性もあるため、十分な体制整備が求められます。
5. 実務のポイント
(1) 対象取引の特定と現状把握
グループ内の関連者間取引のうち、特定取引に該当するものを洗い出し、現状の保存文書で「資産または役務の提供の明細」「対価の額の計算の明細」が網羅されているかを確認します。特にシェアードコスト取引は重点的にチェックすべきです。
(2) 不足情報の補完と文書化
既存の書類で情報が不足している場合は、不足内容を具体的に明らかにする書類(電磁的記録を含む)を新たに取得または作成する必要があります。
(3) グループ内連携の強化
関連会社間で情報共有と協力体制を確立し、取引内容(利用する資産、役務提供者、対応時間の管理など)や請求金額(費用配賦基準の合理性、計算プロセス)を明確化することが重要です。海外関連会社との取引がある場合には、文化・言語・法制度の違いを踏まえた連携体制の構築も求められます。
(4) 社内規定・プロセスの見直し
新たな保存義務に対応できるよう、会計処理や文書管理に関する社内規定・業務プロセスを見直します。経理部門だけでなく、各事業部門・法務部門との連携も不可欠です。
(5) 青色申告承認取消リスクへの対応
書類保存義務の不履行は青色申告の承認取消事由となります。リスクを十分に理解し、確実に義務を履行できる体制の構築・運用が経営上の重要課題となります。
6. 今後の注目点
本制度については、以下の点について今後の詳細確認が必要です。
- 本制度の適用開始時期
- 関連者の明確な定義
おわりに
本改正は、グループ経営を行うすべての法人にとって影響の大きい制度改正です。中小企業であってもグループ会社間取引がある場合には対応が必要です。
特にシェアードコスト取引や、親会社からのライセンス供与・経営指導料などを支払っているケースでは、書類整備の見直しを早期に進めておくことをおすすめします。
本記事は令和8年度税制改正大綱等の公表情報に基づいて作成しています。今後の法令公布・施行状況により内容が変更される可能性があります。
記 中山 2026年4月28日


