はじめに
1. 改正の趣旨と全体像
インボイス制度の定着に向けて、特に事務負担への配慮が必要と考えられる個人事業主については、納税額を売上税額の3割とすることができる経過措置が、さらに2年間延長されます。法人は対象外である点が、2割特例との大きな違いです。
消費税申告方法の変遷(個人事業主・インボイス発行事業者)

改正前は令和9年から簡易課税へ。改正後は令和9・10年に「3割特例」が挟まる形に。
2. 3割特例の概要と計算方法
3割特例は、課税標準額に対する消費税額に7割を乗じた額を控除することで、結果として納付税額を売上税額の3割とする計算方法です。仕入税額の集計が不要なため、本則課税よりも事務負担が大幅に軽減されます。
計算方法の比較
| 区分 | 納付税額の計算 | 事前届出 | 事務負担 |
|---|---|---|---|
| 本則課税 | 売上税額 − 仕入税額(実額) | 不要 | 大 |
| 簡易課税 | 売上税額 −(売上税額 × みなし仕入率) | 必要 | 中 |
| 2割特例(〜R8) | 売上税額 × 2割 | 不要 | 小 |
| 3割特例(R9・R10) | 売上税額 × 3割 | 不要 | 小 |
3. 適用要件と除外ケース
3割特例はすべての小規模事業者が使えるわけではありません。以下の要件を満たす個人事業主に限られます。
| 項目 | 要件・取扱い |
|---|---|
| 適用対象者 | 個人事業主のみ(法人は対象外) |
| 事業者区分 | インボイス登録によって課税事業者となった者 |
| 除外ケース | 基準期間の課税売上高が1,000万円超などにより課税事業者となる課税期間は適用不可 |
| 適用期間 | 2027年(令和9年)分・2028年(令和10年)分の各課税期間 |
| 申告手続 | 確定申告書にその旨を付記(事前届出は不要) |
4. 簡易課税への移行スケジュールが緩和
3割特例を適用した翌課税期間から簡易課税制度に移行する場合、その翌課税期間に係る確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出すれば適用が認められます(従来は翌課税期間末日まで)。2割特例の適用を受けたインボイス発行事業者(個人・法人とも)も同じ取扱いとなります。
9月決算法人(2割特例適用)の届出期限イメージ
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 令和8年10月期から簡易課税を適用したい場合の 届出期限 |
令和8年9月30日まで(課税期間末日まで) | 令和9年11月30日まで(令和8年10月期の確定申告期限まで) |
届出期限が大幅に後ろ倒しになるため、決算後のシミュレーション結果を踏まえて選択判断が可能になります。
5. 準備すべきこと
本改正を受け、経理実務では以下の対応をおすすめします。
| タイミング | 確認・実施事項 |
|---|---|
| 令和8年中 | 個人事業主のお客様・取引先について、令和9年・10年の基準期間の課税売上高を試算し、3割特例の適用可否を確認 |
| 申告時(令和9年〜) | 本則課税・簡易課税・3割特例の3パターンの納税額をシミュレーションし、有利な方法を選択。 |
| 令和10年末以降 | 3割特例終了後の課税方式(本則 or 簡易)を見据え、簡易課税選択届出書の提出スケジュールを管理。 |
まとめ
3割特例は、個人事業主のインボイス対応の「ソフトランディング」のための経過措置です。事前届出が不要・申告時に有利な方式を選べる点で2割特例と同じ柔軟性を備えていますが、対象は個人事業主のみ・基準期間の売上要件ありという制約があり留意が必要です。
記 中山 令和8年5月1日


