グループ内経営指導料の金額設定)|埼玉県川口市の税理士・会計事務所

COLUMN

2024.08.15

税務検討

グループ内経営指導料の金額設定

 

経営指導料とは

 会社をホールディングス化する場合、グループ内の会社毎の役割によっては、親会社が経営指導料を関係会社へ請求することが適切になる場合があります。特に、親会社が関係会社の管理業務を請け負っている場合、営業支援をしている場合、グループ名の商標権を保有している場合、特許権を保有している場合などは、当然に何らかの請求をするべきという判断になり、そのような請求を総称して経営指導料として請求することが多いようです。

 経営指導料を請求する場合に、その請求額をどのように決定するべきか税理士としても悩みの多い論点です。また、実際の税務調査でも、特に支払い側の法人においてはその支払額が高すぎないかという観点での指摘が当局から出されることが多々あります。

経営指導料に関する結論

 まず、結論からお伝えします。

 グループ企業間の取引は、一般的に私的自治の原則により尊重されるべきで、企業が合理性をもって取引をしている以上、税務当局が不必要に介入することはできません(東京地裁に同旨)。
 但し、特殊な関係に基づく租税回避と断定できるものであれば別ですので、当該取引が価格操作と認められることのないようにしなければなりませんが、当該金額の根拠となる経過等を明らかにする稟議書等を準備をしていれば税務調査を恐れる必要はありません。

 そこでこの記事では、経営指導料の金額設定をするにあたっての考え方を検討します。

経営指導料の原則的な考え方

 まず、原則的な講学上の考え方としては、「第三者取引価格」という言葉がでてきます。その役務やサービスを第三者から享受する場合に通常支払われる金額が第三者取引価格と定義され、その金額の範囲内であればグループ間取引においては問題なしという判断です。

 また、第三者取引価格を逸脱するとして否認される場合には、法人税法第37条第7項にいう「経済的利益の贈与」として、当該支出は寄付金として認定されます。税務上寄付金に該当する場合には、その損金算入できる金額に限度があり、その限度を超える金額が否認となります。

経営指導料が論点になる理由と参考事例

 第三者取引価格に関して、提供されている役務が管理業務だけであれば定量的な算定が簡単ですが、営業支援やグループ商標権使用料など定性的に判断する必要があるものの対価として経営指導料を定義づける場合、その第三者取引価格が分からないことが多いということになります。

 ここで参考になる事例として、アメリカのフィリップス社の関係会社がアメリカ本国のフィリップ社に支払った経営指導料を当局が否認した事例(東京地判平成12年2月3日)が挙げられます。

 本件は、フィリップスの子会社である日本法人が、フィリップ社へ売上高の1%を経営指導料として支払っていた支出(経営指導料)を当局が寄付金として否認したもので、地裁判決で納税者勝利となっております。

 一般的な中小法人グループで考えると1%で否認されるのは驚かれるものと思います。しかし、判決文によると経営指導料が13億超に上っていたため、1%という割合に引っ張られる必要はなさそうです。

 本件で注目すべき点は、東京地裁が判示した判断基準にあります。概要をお伝えすると、「無償の役務等の供与があれば、寄付金の額に含まれる。経営指導料は、当該役務が市場性を有しない場合、その役務提供経費に利益報酬部分を加算した額にすべきである。したがって、経営指導料が役務提供経費を超えているからと言って、直ちに寄付金に該当するとは言えない。役務の内容、企業間の関係、対価の決定方法の合理性、役務提供内容、便益の大きさ、役務と便益の直接性によって総合的に判断すべき。具体的には、第三者取引価格と著しく乖離していて、租税回避のための価格操作と認めるべきものかどうかによって判断すべき。」という内容でした。

 すなわち、第三者取引価格と著しく乖離していて、種々の関係性から租税回避のための価格操作と断定できる場合にのみ、寄付金として認定されると判示しています。

フィリップス社の事例検討と設定に係る留意事項

 上記の基準であれば、第三者取引価格との乖離や租税回避目的は、事実上当局側に挙証責任があるといえますから、金額の妥当性を疎明できれば、原則として容認される取引であろうと判断します。

 もちろん、なんでも良いということはないので、合理性を持った価格設定をする必要があり、そのポイントは以下の通りと考えています。
 ・フィリップス社のように、「率」で決めるのではなく、「額」で決める。
  例 ✖:売上高の1% 〇:月額〇〇円
 ・経営指導項目を列挙し、それぞれに金額を設定する
 ・会社間の関係性を問われることから、子会社に欠損金がなく、親会社に欠損金がある場合などは特に注意する。
 ・金額決定の経緯に関して、稟議書を残しておく。
  ※その決定基準は、その後に経営指導料を変更する場合でも守る(基準を変えない)。
 ・可能であれば、第三者の同業務の見積書を取得しておく

 否認はされずらい論点ではありますが、否認された場合の影響は極めて大きいため、慎重に検討をすることをお勧めします。

 経営指導料の設定にお困りの場合は、中山&パートナーズへご相談ください。

記 中山

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