税務調査で従業員の横領が発覚したケースでの対応)|埼玉県川口市の税理士・会計事務所

COLUMN

2025.02.06

税務検討

税務調査で従業員の横領が発覚したケースでの対応

近年の調査件数等動向

コロナ禍が終わり、同業の税理士との会話によると税務調査件数が相当数増えている様に感じます。
国税庁からは、令和4年までの税務調査件数が発表されておりますが、令和4年でも前年令和3年比で152%増(令和3年41,000件 令和4年62,000件)となっており、感覚としてはそれよりはるかに多いと感じます。
また、令和3年以降、税務調査先選定にAIを使用しているとの国税庁からの発表もあり、今後ますます効率性が上がる分、調査件数は増えてくるのではないでしょうか。

調査での横領発覚

税務調査でしばしば発覚しがちなのが、従業員・役員の横領です。事業会社の通常のオペレーションでは、発覚しづらい従業員の横領も、調査の際に従業員や役員家族の銀行口座調査をすることにより発覚することが多いようです。また、取引先の税務調査で当該取引先の取引先従業員への支出等があることから発覚することもあります。

もちろん横領の態様は多岐にわたり、一番多いのはリベートの受領でしょうか。その他、金銭の横領、在庫等の横流しなどがあると思います。

役員が横領した場合の税務

このうち役員の横領については、税務上の取り扱いが役員への認定賞与となりかねず、そのような場合には当該会社へは甚大な税務上のリスクが発生します。
すなわち、認定賞与となった場合には 税務上 認定賞与(役員の為損金不算入)/損害賠償請求権(益金) という処理になり、法人税課税、源泉所得税課税のダブルパンチです。場合によっては、当該横領金額がそもそも法人に帰属すると認定されたときには、消費税も課税となる場合があり、トリプルパンチです。
そのため役員の横領が発覚した税務調査では、先ずは、当該横領金額が法人の所得に帰属しないこと、仮に帰属するにしても認定賞与ではなく、横領損失(損金)という方向で主張・反論する必要があります。
この場合でも、当該益金の計上時期がいつになるのか、損金の計上時期がいつになるのかの論点(発生時説・発覚時説)が発生しますが、原則として会社は被害者であるという立場から、以下に挙げる有利な要素を強く主張することです。
いずれにしても、苦しい対応になるでしょうから、そのような場合になったとしても、被害者の立場から有利な要素をしっかりと主張できるよう、日頃横領がなるべく起こらない仕組みを構築しておくことが大切です。

従業員が横領した場合の税務

次に、従業員の横領が発覚した場合の対応です。
この場合は、仮に賞与等と認定された場合でも損金算入は認められるため、源泉所得税の問題だけになり役員の場合と比較してまだマシということになるでしょうか。
但し、いずれにしても所得が法人に帰属するとなった場合には、相当程度の税額が課税されてしまうため、先ずは当該横領金額は法人に帰属しないと主張することが大切です。

横領金が法人所得に帰属するか加害者の所得に帰属するかの判断基準

そこで最後に、当該横領金額が法人に帰属するのか加害者たる従業員に帰属するのかの判断基準を提示します。
過去の裁決例・裁判例から検討すると、裁判所は以下をその判断基準として考えているようです。
①使用名義「横領に際して、従業員が会社名を使用しているか」
受取口座「受取口座は法人のものか、個人のものか」
③当該横領金のその後の使途「加害者たる個人が自己の為に使用したか、会社の取引の穴埋めのためなどに使用したか」
④相手方の認識「相手は、法人に渡すつもりで個人へ渡していたか(領収書名など)」
⑤事業関連性「当該横領は法人の事業に関連して行われたものか」
以上を総合的な判断で検討するため、法人としては被害者であるという立場からより有利になる基準で主張をすることが大切です。

まとめ

上記の通り、法人の収益計上時期や従業員への貸倒認定など多岐にわたる深い論点でありますが、今回はその中で主に横領金の所得帰属性をお話しさせて頂きました。

記:中山

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