同族法人へ一括賃貸した場合の賃料設定)|埼玉県川口市の税理士・会計事務所

COLUMN

2025.05.08

税務検討

個人所有不動産を同族法人へ一括賃貸した場合の賃料設定

個人所有不動産を同族法人へ一括賃貸した場合の賃料設定

前回の記事では、複数のビジネス(特に法人・個人事業をまたがる事業)を保有するオーナーの必要経費算入に関して、令和6年3月13日大阪地裁判決を基に記載をしました。

この記事では、個人の賃貸用不動産を自己が株式を保有する同族会社に対して、同裁判例をもとに一括貸し付けを実施した場合の賃料設定に関して記述します。

話の前提として、例えば賃料収入が1,000見込める賃貸物件(個人が保有)を個人が貸し付けるとその所得全額に対して所得税が課税されます。一方で、同族会社が管理をするなどの名目で当該物件を800で同族会社へ貸し付け、同族会社が1,000で賃借人に貸し付けた場合には、個人には800に対する所得に対して所得税が、法人には200(1000ー800)の粗利に対する所得に対して法人税がそれぞれ課税されることになります。

所得税と法人税を比較した場合に、所得が高いほど所得税等の方が税率が高く、法人税等の方が税率が下がりますから、同族企業である管理会社へ一括貸し付けをした場合には、税率差から全体の税額が下がるため、納税者としては法人へ低い賃料で貸し付け、法人へ所得を寄せるような意図が働きがちになります。

以上の理由から、個人が法人へ貸し付ける金額が著しく低い場合には、「所得税の負担を不当に減少させる結果になる(所得税法第157条第1項)」ものとして、すなわち行為計算の否認として課税当局は是認しないという方向に傾きます。

この記事では、以上の構図で争われた大阪地裁令和6年3月13日判決(令和4年(行ウ)第60号)を取り上げて、実務上の検討を加えたいと思います。

事案

納税者は、自己が保有する27の賃貸用不動産を合計で以下の通り自己が支配する同族会社へ貸付をし、当該同族会社は合計で以下の通り賃貸人へ貸付をしていた。
平成27年
納税者→同族会社への貸付 1億8000万円
同族会社→賃貸人への貸付 3億2880万円
平成28年
納税者→同族会社への貸付 1億4400万円
同族会社→賃貸人への貸付 2億4091万円
平成29年
納税者→同族会社への貸付 9600万円
同族会社→賃貸人への貸付 1億6151万円

国の主張

本件納税者から法人への貸付は、法人の管理行為を目的とするものであるが、法人は40%以上の粗利があり、当該40%を管理料として収益としているものである。適正管理料は、同業他社の比率から6.32%~6.37%であり、個人が法人へ貸し付ける賃料は著しく定額であり、行為計算否認の法理(所得税法157条1項)により否認されるべきである。

納税者の主張

賃貸料の基準は様々であろうが、一定の基準は必要であろうと考え、顧問税理士とも協議の上、①納税者が不動産を取得するための銀行借入返済、火災保険料、固定資産税等を下回らない金額とすること、②法人の粗利により、法人の事業運営と経費が賄えること、③個人⇔法人の賃貸借契約の契約期間中は、仮に不動産売却をしたとしても賃料を変更しない契約であったため、売却した場合の賃料収入減少を織り込んで事業運営に支障が生じないようにすること。以上3点を基準として設定したものである。
納税者として、慎重に判断し基準を継続して適用してきており、行為計算として否認されるいわれはない。

裁判所の判断

納税者勝利
行為計算の否認が適用されるケースとしては、①当該賃貸借契約が通常は想定されない手順・方法に基づいたり、実態とは乖離した形式であったり、賃貸料が著しく低いなど、不自然なもので②税負担の減少以外に合理的な理由がない場合である。
当該賃貸借契約は、契約期間中の賃料が一定と定められており、当該期間中に発生する空室リスク、訴訟リスクを法人側が負うため、一般に言うマスターリース契約と同様のものであると考えられる。
そのような契約の特殊性等に照らせば、適正賃料の算定に当たっては管理委託方式を基に算定することについては合理性に欠ける。したがって、納税者が設定した金額は経済的合理性がないとは言えず、所得税の負担を不当に減少させる行為・計算には該当しない。

検討

納税者が、契約期間中の賃料を変更しない契約をしていたことから、一般的な管理委託方式の賃貸借契約ではなく、マスターリース契約としてとらえられ、空室リスク等を織り込んだ賃料設定を認めたものです。
個人⇔同族法人間でもマスターリース契約をした場合に行為計算否認がないため、空室リスクを織り込んだ幅の広い契約が所得税法上認められることになります。日本の不動産オーナーにとっては、きわめて画期的な判決で、今後の実務に影響が出てくるのではないでしょうか。

次回コラムでは、直近税務調査で是認通知を受けた場合に同様の処理をした次回調査で更正処分を受けたときの禁反言の原則妥当範囲(要するに前回調査で是認された内容は次回でも否認されないか)について解説します。

記 中山
※令和7年5月の租税法に基づいた記述です。

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