役員退職金の「功績倍率」、3倍なら本当に大丈夫?)|埼玉県川口市の税理士・会計事務所

COLUMN

2026.03.13

税務検討

役員退職金の「功績倍率」、3倍なら本当に大丈夫?

確定申告シーズンもひと段落し、少しだけ落ち着いてきた今日この頃です。今回は、顧問先の経営者の方からもよくご相談をいただく「役員退職金」について、改めて考えてみたいと思います。

長年、会社のために尽くしてきた経営者の方が退任される際、相応の退職金を受け取りたいと思うのは、当然のことだと感じます。しかし現実には、役員退職金は税務調査でも特に指摘を受けやすい項目のひとつです。


退職金の計算式と「功績倍率」とは

役員退職金の妥当額を計算する際には、一般的に次の式が使われています。

退職慰労金 = 最終役員報酬月額 × 勤務年数 × 功績倍率

この式は法律で明文化されているわけではありませんが、実務上の唯一のルールとして広く使われています。

この計算式の中で、特に解釈の余地が残るのが「功績倍率」です。功績倍率とは、退職する役員が会社にもたらしてきた貢献を、退職金の額に反映させるための係数のようなものです。

実務では「3倍」として計算するのが慣例とされており、顧問先へのアドバイスでも「3倍を超えないように」と指導することが多いかと思います。昭和40〜50年代のいくつかの裁判で「3倍が妥当」と判断されたことが、今日まで引き継がれているからです。


「3倍なら安心」とは言い切れない現実

ところが、3倍であれば必ず認められるかというと、そうとも言い切れないのが難しいところです。

たとえば平成25年の東京地裁判決では、納税者が「14.5倍」を主張したのに対し、課税庁が「3.0倍」を主張して争ったところ、裁判所はなんとそれをさらに下回る「1.18倍」が妥当と判断しました。過去の裁判例でも「2.5」「1.4」「2.3」など、3倍を下回る功績倍率が適用されたケースは少なくありません。

一方で、平成29年の東京地裁判決では、「平均の1.5倍」の範囲であれば許容できるという基準が示され、納税者側にとってやや前向きな判断も出ていますが、その控訴審(東京高裁 平成30年4月25日判決)東京高裁では、功労加算は「特殊な事情があると認められる場合に限り」考慮すべきものと、更正処分を認める判断を行い、税務当局側の逆転勝訴となりました。

高裁としては、1.5倍が独り歩きしないようにくぎを刺したというところでしょうか。
また、近年功績倍率が低下している要因として、同種同規模の他者事例を検討すると、3倍も出せる会社が少なくなってきているのではないかというのが、個人的な実務感覚です。そうであれば、景気の良しあしに税務の上限が制限を受けてしまうというのは残念な話ではあります。

税務当局は同業他社の退職金データを把握している一方、納税者や税理士がそれを正確に知る手段はほとんどありません。この「情報格差」があることも、この問題を難しくしている一因だと思います。


これまでの会社への貢献と裁判例を総合的に勘案

長年会社を支えてきた経営者の方に、できるだけ多くの退職金を受け取っていただきたい——そう思う気持ちは、私自身も同じです。

ただ、否認事例が多く、否認された場合のリスクが極めて大きいため、「3倍にしておけば大丈夫」と言い切ることがリスクゼロではないことを、しっかりご認識の上で、一緒に最善の判断をしていきたいと思っています。

個人的な考え方ですが、退任までに積み上げてきた剰余金、世代交代してからの剰余金に対する貢献度が総合的に勘案するうえでの大きなポイントになると考えております。

退職金の設計は、できれば退任の数年前からご相談いただけると、より丁寧に対応できます。お気軽にご相談ください。

記:中山

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