国税庁から令和5年11月に発表された法人税等の税務調査の実績に関しまして先日(令和6年2月22日の記事で)ご紹介しました。その中で印象的だったのが、移転価格税制の所得漏れ額(対前年117.9%)や事前確認の申し出件数(対前年117.1%)などから、移転価格税制に関する取組が増えていることでした。
私の友人の国際税務を手掛ける税理士も、中小企業の税務調査で移転価格税制の指摘が増えており、問い合わせがとても多いという話をしていたことを思い出し、今後注意を向けなければならないと感じております。
移転価格税制とは
ここで、移転価格税制の簡単なご説明ですが、日本国内にある法人が海外関連法人等と取引をするに際して、恣意的な価格決定をしていた場合に、通常の第三者間取引を想定した価格での取引があったとみなして法人税を課税する制度です(措置法第66条の4第1項)。
例えば、国内法人が通常100で外注している業務をモナコ(法人税が非課税)にある子会社へ300で発注した場合に、国内法人の法人税は費用が通常より200多く計上され減額となり、海外子会社は売上300に対して非課税となることに対して、国内法人では200の損金が否認され、100の外注があったとみなされるという仕組みです。
上記のタックスヘイブン(租税回避地)のような極端な例ではなくとも、海外関連者との取引に対しては、第三者取引価額であるか否かは確認が入ります。
移転価格税制に係る否認指摘を受けると、本来海外関連者で損金計上可能な処理がないまま、国内法人で課税されるという、二重課税的な悲しい結末になりますから、大いに注意が必要すべきです。
移転価格税制に対する一般的な対策
通常、移転価格税制による損金否認を指摘されないためには、一般的には海外関連者との取引の粗利率を当該法人の粗利率と併せることが考えられます。
もちろん、当該取引に特殊性があり、通常の取引より粗利が高い・低いというケースは十分に考えらえれますので、その合理的な根拠が疎明できれば問題ありません。
指摘されやすい移転価格税制の否認事例
一般的には上記の論点が多くなりますが、漏れていると確実に否認事項となり、しばしば忘れられがちなのが以下の項目です。
①子会社支援費用
例えば、海外子会社に親会社の社員が訪問し技術支援を行う場合、特に意図せず無償で行ってしまう場合がこれに該当します。資本関係のない第三者であれば無償の技術支援は考えられませんから、当該社員の人件費に加えて適切な利益を乗せるなどで技術支援に係る請求をすべきでしょう。
②ロイヤリティ
例えば、海外子会社が国内親会社の商標や特許を利用する場合などがこれに該当します。これについても、適切なロイヤリティを請求しなければなりません。
以上2点が抜けていると言い逃れができない明確な指摘事項となってしまいます。
日本国内のインフレが進みますと、海外に進出されたい中小企業も今後増えると思います。進出の際には移転価格税制を念頭に、取引価格の決定が必要です。ご不安があれば、是非中山&パートナーズへご相談ください。
記:中山