税務調査か不服申立かの判断
前の記事「税務調査と不服申立」では、税務調査で納得がいかない場合の不服申立制度の概要を主に示しました。
ここでは、税務調査対応時に、不服申立へ移行すべきか、税務調査で税務署を説得するべきかの判断基準や、不服申立へ移行する場合の税務調査時の留意点についてお話しします。
税務調査でよくあるシーン
税務調査官「この支出は、接待を目的としており交際費と認定します」
納税者「この支出は、宣伝目的だから単純損金ですよ。当社の個別具体的な事情があるんだからくみ取ってくださいよ」
税務調査官「いやいや、、これは」
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その後も問答が続き、、
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納税者「もう勝手に課税してくれ!」
最悪のやり取りです。
どちらも一生懸命で熱くなることもあると思いますが、論点が何なのかさえ分からずに終わってしまっています。
通常は、一番冷静でいられるはずの税理士が論点整理や事実の洗い出しを試みますが、税理士が立ち会わないケースでは特によくあることのようです。
不服申立の前提的な考え方
かりに不服申立を前提として対応を切り替えた場合でも、上記の対応はいただけません。すなわち、「国税不服審判所の判断に委ねるから、もう税務署と話す必要はない」という対応はNGです。
まず、不服申立を検討している場合に、前提としないといけないこととして「国税不服審判所・裁判所は、その判断で納税者の感情的事情は一切考慮しない」ということを覚えておく必要があります。
審判所は、法律・政令・規則と過去の裁判例・裁決例によってのみ判断します。納税者が当該取引で感情的にどのような事情があったかなどは斟酌されません。したがって、感情的事情があってどうしてもくみ取ってほしい場合には、一生懸命税務調査で納得してもらえるよう説得する必要があります。
税務調査で必要な対応
感情的事情の論点がないとして、次に仮に審判請求するとしても、その前提になる税務調査において、当局とどこに見解の相違があるのかを冷静に並べる必要があります。
納税者・調査官とも少し冷静になってからで良いので、どうして結論が違うのかをひざを突き合わせて事案分解をしましょう。
国が国民に課税するためには、課税要件と課税事実の両方をそろえる必要があります。従いまして、見解が合わない場合には、事実の認定、課税要件の勘違い、要件に対する事実のあてはめのいずれかに意見の相違がありますから、どこが合っていないのかを明確にしましょう。
事実の認定であれば、どのような事実を何に基づいて認定しているか、課税要件ごとに整理しましょう。大切なのが、その事実を認定した客観的根拠の確認です。
斟酌してほしい感情的な事実もない。当局と握っている事実も一致している。しかし、課税に必要な課税要件の認識や当てはめが異なる。
以上の状況であれば、そこで初めて不服申立への移行も検討すべきでしょう。
ここまで整理したうえで見解に違いがあれば、課税要件に関して法律上複数の解釈ができるということになろうかと思いますので、納税者としては過去の裁判例を丁寧に拾っておく必要があります。
その裁判例から拾った課税要件を調査官と話し合うことも必要です。そもそもその事案に当該裁判例が当たらないのか、当たっていたとしても裁判例の読み方が当局と異なるのかまで話を詰めます。
不服申立を検討してもよいケース
ここまでの検討を当局と一緒に試みて、それでも最後見解が違いますねということであれば、修正申告に応じず、課税決定を受けたうえで不服申立を検討しましょう。
※修正申告をした場合には、不服申立や再調査請求はできません。
議論が上記のレベルに達する前に、冒頭のやり取りのように「当局と感情的に決別したから不服申立!」という稚拙な判断では、前の記事で記載した審判所の認容割合9.7%の狭き門には入ることはできないでしょう。
税務調査では自主的な修正をさせる前提で、調査官による無理な主張も見受けられますが、最終的に冷静に論理的な主張をすれば、署としての正しい見解を出してくれることがほとんどです。
税務調査では熱くなってしまうこともあるかもしれませんが、もし、不服申立を視野に入れて調査対応をするのであれば、第三者的視点でしっかりとご自身の主張を俯瞰することがとても大切です。
記 中山